【獣医師インタビュー】エルムス動物医療センター #3 GW前に見ておきたい!動物とのおでかけについて/移動の注意点
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エルムス動物医療センターは、病院での診療後に、より専門的な診察や治療を行う二次救急病院。病状を伝えられないペットたちにとって、早期発見・早期治療は重要なポイントです。
今後Perroleで様々な動物医療監修を行っていただくのは、東京都杉並区にある「エルムス動物医療センター 八幡山病院」のセンター長である高瀬先生。高瀬先生のご専門は整形外科です。
今回は、『動物とのおでかけについて/移動の注意点』といった点を中心に教えていただきました。
エルムス動物医療センター
高瀬雅行(たかせ・まさゆき)先生
生年月日:5月8日
出身:栃木
八幡山院 整形外科主任
所属学会:麻酔外科学会 / 獣医神経学学会
得意分野:整形外科 / 神経外科・内科 / リハビリテーション
犬との楽しいお出かけ、車の移動で注意したいこと
まず、人が犬とお出かけや移動することについて、獣医師の目線でどのようにお考えですか?あまり長い距離を移動するのは、良くないのでしょうか。
※「移動については生活の知恵や経験則、主観が入る可能性がありますがご了承ください」といった前置きをいただいております。
一般的な健康な子であれば、移動距離はそんなに問題でないですね。
犬は車に乗ったりする生き物ではないですが、そもそも生物的に同じところにとどまっている生物ではないんです。なので、移動に関しては問題ないと考えています。
人間で旅行好きな人がいるのと同じで、犬も旅行好きな子と、嫌いな子のどちらもいると思います。
ただ、前に言ったように、ずっと同じ場所にいる生物ではないので、おでかけ自体は犬にとって楽しみになると思います。
イベントごとは基本的には「楽しい」と思えるでしょうね。距離としては、犬が無理なく行ける範疇であれば問題ないと思っています。
お出かけが苦手な子とそうでない子、違いはどのような点で生まれるのでしょうか?
動物には「社会化期」という、社会になれる期間があるんです。
仔犬の時に、社会に慣れておくことは大切なこと。小さい時に外に出ていることは大切です。
急に1歳になったときに急に外出ることになったとして、それは人でたとえると、旅行に行ったことのない人が大学生になって急に一人で旅行行けと言われるようなものです。(笑) それはできないですよね。
犬の場合は、最短で生後2か月くらいが目安です。生後4-5か月くらいで、ブリーダーが外に出していて慣れている子もいますよ。
ただ、その時点では遠出をすべきではないですね。
仔犬の時期は、車や他の犬との環境に慣れる時期です。その時期に地面におろさず抱っこして、少しずつ外の環境と触れ合うのは、とても良いことですよ。
車に乗せることについても、最初から全然平気な子もいれば、車酔いをしてしまう子など、個体差はあります。
わんちゃんで、特に小さい子は車酔いをする子が多い気がしますね。
車酔いに関しては、精神的なものと、物理的もののどちらもあります。一度車酔いを体験すると、車を見ただけで反射的に酔ってしまう子もいます。
犬を車に乗せて移動する前に、まず小型犬のときには、だいたい5~10分車に乗せてあげて、落ち着いて車の中で過ごさせる。それだけでも、だいぶ車に慣れてくれると思いますよ。
犬の車酔いは、どんな状態ですか?また、車酔いは車だけなのでしょうか。
人間と同じで、嘔吐してしまいます。よだれが出たり、すごく落ち着かない状態になると、車酔いしていることがわかります。
また、車だけでなくて電車も酔うことはありますね。
ただ、車の方が物理的な閉塞感や、匂い、揺れ、止まったり動いたり‥が多いです。どちらかというと、車の方が酔いやすいと思います。
犬の酔い止めはありますか?酔い止めはどんなタイミングで飲めば良いのでしょうか?
はい、犬の酔い止めの薬はありますよ。唯一、酔い止めとして発売されている薬があり、当院でも処方として出しています。移動が多い方は、常備薬として入手される方もいらっしゃいますね。
酔い止めを飲むタイミングとして、これから長い距離で移動するということがわかっていて、もし心配であれば事前に飲ませても良いでしょう。
とはいえ、酔い止めは軽いビタミン剤ではなく、れっきとした薬。気軽に使い続けるのは良くないですね。
すでに酔うことがわかっていて、具合がおかしかったり、怪しかったり、心配であれば、酔い止めを使っても良いと思います。
もちろん、車に慣れない子は、すこしずつ車に慣らすことが大切です。
また、車酔いをする子に対して、薬使ってまで遠出するのは、改めて考えてあげても良いと思いますね。
ただ、大型犬で都内だと運動が足りないから車で行きたいという方もいらっしゃるでしょう。そういった子に対して、酔い止めは有効に使えるのではないかと思いますよ。
車酔いをしやすいのは、大型犬と小型犬どちらでしょうか?
酔い止め薬の処方を出す数としては、小型犬の方が多い印象があります。なので、大型犬の方が車酔いに強い印象がありますね。
車や電車で移動する時に、気を付けたいこと
車や電車で移動する時に、犬はどんな体勢だと良いのでしょうか?リードを付けて抱っこするこが良いのか、車用のシートに乗せるのか‥。
一番推奨したいのは、キャリーです。狭い空間で落ち着いた空間の方が、犬にとってはまず安全です。
例えば、車の急ブレーキで人がぐっと前に出るとき、犬はそのまま座席から転げ落ちてしまいます。なので、キャリーに入れることはとても大切です。
キャリーもタオルを敷いてあげるなど、落ち着いていられる空間をつくってあげてください。
車の移動は楽しむのではなく、あくまで移動は移動。安全面で言えば、キャリーが一番なんです。大きさとしては、無駄に大きすぎないキャリーが良いですね。
そして、一番危ないのは「抱っこ」です。
犬とのおでかけ、楽しくてつい抱っこして移動する方も多いのではないでしょうか。実はとっても危険です。
人間の赤ちゃんも、チャイルドシートは必須ですよね。
急ブレーキがあった時に、抱っこしていて落としてしまい脱臼した、骨折した例はちらほらあります。
抱っこでリードしている状態でも、あまりにも車の中で自由にさせすぎてしまい、事故に繋がるリスクがあります。車の隙間に入ったりと、危ないので注意してくださいね。
キャリーの適切な大きさは、どのくらいなのでしょうか?また、移動中のリフレッシュ休憩は何時間ごとが良いのでしょうか。
キャリーの大きさでいうと、「ケージレスト」ということばを使うのですが、「安静にしていなさい」という意味を表す大きさです。
足を痛めた時に”動かさないで”というサイズのルールがありまして、『犬の体長の1.5倍』のことを指します。
犬が起き上がり、方向転換ができるものの、自由に動き回れないくらいの大きさです。それが一番大きいサイズ感で、それ以下である必要があります。
通常、犬の体格+1.5倍くらいの、立てるか立てないかくらいで方向転換ができるくらいキャリーが「安静にしなさい」というケージの大きさなんですね。
起き上がったりすることがあまり自由にできすぎない大きさです。それくらいだったら、長い時間いても平気な大きさですよ。
休憩の時間は、人によるのと同じ。基本的には1時間~2時間が理想です。
人が休憩したくなったら一緒に。何か病気があるかによっても違いますが、一般的には1時間に1,2回くらいが理想的ですね。
犬が寝転がれるのか、すこし足を丸めるような体勢になるのか、どのくらいの大きさが良いのでしょうか。
犬にとっては、広すぎるよりは少し狭いくらいでも良いと思いますよ。うずくまって寝てられて、体位変換ができるくらいが丁度良いです。
犬にとっては、広い場所が良いのかと思っていましたが、そうではないんですね。
そうですね。実は犬も、家の中で狭いところにいるトレーニングをしておいた方が良いんです。
「狭いところが安心、安全」という認識をつくってあげると良いです。
例えば車の中でも、急ブレーキで止まるとぶつかったり飛ばされてしまったりすることがあるので、広すぎることが良い・安全というわけではないですね。
安心できて、危なくない、窮屈すぎない広さがベストです。横になって広さが余っている状態は、あまり良くはないんですね。
人間の赤ちゃんと同じ感覚で、赤ちゃんも必ずチャイルドシートにのせる必要がありますよね。
車の運転自体を楽しみにするのではなく、移動が目的なので、大型犬でもキャリー入れている子もいます。
もしキャリーではなかったとしても、余り過ぎない大きさに守られていると良いでしょう。
自己判断で、愛犬に自由なスペースを与えすぎないことも大切
「犬にとってストレスがない環境を」と、飼い主が自己判断して自由にさせすぎてしまうことは、よくあることなのではないかなと思います。
犬の安心・安全を守ってあげること、そのためにきちんと知識をつけて行動することが、飼い主の責任でもあり、注意したいポイントですね。
次回は、『動物とのおでかけについて・怪我の注意点』を中心に取材していきます。
【獣医師インタビュー】エルムス動物医療センター 取材記事バックナンバー
高瀬雅行先生 ご経歴
DVM CCRT
出身:栃木県
2010年 麻布大学卒業
2010年〜2014年 川瀬獣医科病院
2014年 CCRT取得(米国の犬リハビリ認定医)
2014年〜エルムス動物医療センター
2014年〜日本大学付属動物病院整形外科研修医
2017年〜エルムス動物医療センター
センター長/整形外科主任
2019年〜 AMUSE動物運動器外科サービス
2022年〜 株式会社BJvet 代表